何でも狙っていた魚を初めて釣ることができたルアーというものは、とても印象深いものなのではないでしょうか。
そんな中でも稀少性の高いイトウが釣れたものとなると、一際深く記憶に刻まれているもののはずです。
私も、初めてイトウを釣ったルアーというものは、今でもハッキリと覚えています。
それは、ニルズマスターのインディジブルという、日本ではちょっとマニアックなフィンランドのメーカーのウッド製のミノーでした。
その時は、なんとポカーンと浮いているイトウが見えていたものですから、フローティングのプラグが良いだろうと投げてみたのですが、それがインディジブルでした。
その頃の私は、タックルもルアーもほとんどがオールドと呼ばれるような古い物ばかりを使っていて、持っていたミノーもラパラとニルズマスターの木製の物のみでした。
その中でフローティングでも飛距離が出やすくキャストしやすいものは、インディジブルしかなく、特にこのルアーが気に入っていたというよりは、これしか選択肢が無かったのです。
そんなインディジブルを、ポカーンと寝ぼけているように浮いているイトウの少し向こうにキャストしてみました。
イトウは、着水音で逃げる様子もなく浮いたままです。
そのまま目の前までリトリーブしてきても、イトウは微動だにしません。
そこで目の前でストップさせると、インディジブルはサスペンドプラグのようにイトウの口の前にピタッと定位してから、わずかに揺れながら浮き上がりだしました。
その次の瞬間、イトウはピクリとも移動しないまま、パクりとインディジブルを口に吸い込んだのです。
「あれ、食べたよね?」と疑いたくなるほどの静かな捕食でしたが、アワセてみるとずっしりと重みが伝わってきて、バシャンバシャンと急に慌てたようにイトウは鈍重に暴れだし始めました。
ちょっと目の前で起きていることが信じられないほどドキドキしながら寄せてきましたが、なんとネットを構えた瞬間にバレてしまいました。
その頃は、まだイトウという魚は、そんなに沢山釣れる機会があるものではないと思っていたので、地面に転がりこむほど悔しかったのを覚えています。
結局、その1時間後に同じ場所で、おそらく同じ魚をダイワのチヌーク(チヌークSではなく、古いチヌーク)で釣ることができたので、正確にはイトウを初めて釣ったルアーというものは、チヌークなのかもしれません。
しかし、初めてイトウを掛けたという興奮と、それ以降数えるほどしかプラグでイトウを釣ったことがないという珍しさから、インディジブルの方がずっと印象深いものとなっています。