私は、プラグでイトウを釣ったことがほとんどないのですが、プラスティック製のプラグで釣ったイトウとなると、たったの一匹しか釣れたことがありません。
そもそもが、ああいったルアーの安っぽい見た目が嫌いなのであまり使う機会がなかったのですが、あまり釣れる気がしなかったのも事実だと思います。
その魚を釣った時も、もう全く魚が釣れる気がしていませんでした。
秋の湖だったと思うのですが、夜明けから釣りを始めて何も釣れないまま、もう夕方になっていたのです。
もう無駄にお気に入りのスプーンを根掛かりで失うのも嫌だし、どうでもよいルアーを投げようと、滅多に使わないミノーを投げていたのでした。
重心移動のウェイトがリトリーブするとコロコロと動くタイプで、その音は波が落ち着いてきて静かになった夕闇迫る湖に響きます。
「こんなに音がしたら余計に釣れないんじゃないか」と思いましたが、その音でちょっと寂しさが紛れる気がして楽しくなってきましたから、適当に投げ続けることにしました。
そして、ミノーが水没したボサの近くを通過した瞬間、ゴンゴンゴンとイトウが来たのです。
とても小さな魚でしたが、もうその日は諦めかけていたので、とても嬉しかったものです。
そして何より、私はその頃色々と思い詰めた気持ちで釣りをしていたので、この魚が釣れたことで、いくらか心が救われた気がしました。
たった一匹の小さな魚でしたが、唯一プラスティックのミノーで釣ったこのイトウのことを、私はこれからもきっと忘れないことでしょう。