何年前かの春先に、なかなか遠くに釣りに行く機会がなかったので、ちょっと近場で鯉でも釣ってやろうかと思い、川に向かいました。
水に浮く発砲素材と適当な綿をフックに巻いたフライのような物を作り、スーパーに寄って食パンを買い、「これで釣れたも同然だろう」とナメきった気分で出掛けていきました。
もう頭の中では、ジーッとフライリールが逆転する小気味良い音が鳴り響くのを想像していて、釣れる気満々だったのです。
さて、川に到着して、まずは鯉を寄せて食事する体勢にしようと、食パンをちぎって投げてみました。
すると、思ったよりも鯉が反応しません。
ほとんど水面に浮上してきませんし、お気に召さないようです。
まあいいか、と私はフライのようなものを投げて、鯉の鼻先まで送り込んでみましたが、吸い込む直前まではいきましたが釣れませんでした。
「もっとパンを撒いて、それにフライを紛れさせた方がよいのかもしれない」と思い、私はさっきより大胆にポンポンとパンを投げてみました。
するとどうでしょう。
鯉達は、パンを食べるどころか、上流向きと下流向きに別れてどんどん逃げていってしまいました。
パンの流れる先を見ていると、はるか下流ではパンを水面で食べているようです。
「これは、どうやらパンを撒いて釣る人が多すぎて、パンにスレまくっているのではないか」と気づいた時にはもう遅く、警戒しまくった鯉はフライを流し込んでも、もう反応さえしてくれませんでした。
「こんなに鯉を釣るのは難しかったのか」と、自分の認識の甘さに恥ずかしさを覚えながら私は家に帰り、余りの食パンは翌日の朝食となったのです。
そう言えば、先日川で鯉を釣っている子供達がいましたが、ウキを付けた仕掛けを使っていて、浮かせたパンを食わせる、いわゆるパン鯉スタイルではありませんでした。
私が子供の頃は鯉はフックとパンだけで釣れたものですが、やはり現在はパンにスレていて、餌を沈めて釣る必要があるのかもしれません。
いつの間にか鯉は何度も酷い目に合い、昔とは違う魚になってしまったのかもしれません。
鯉も楽じゃないんだなぁ、と思うと同時に、釣り人がこんな状態にしてしまったことに、少し申し訳なさを感じるのでした。