以前、林道をかなり進んだ奥で釣りをしていて、移動しようと川から上がり車の前に立っていると、「ドーン!」という大きな音が遠くから聞こえてきました。
そうこうするうちに、車が走ってくる砂利を鳴らす音も聞こえてきて、一台のプリウスが走ってきて目の前で停車しました。
車体全体が砂埃だらけの汚い車でした。
車高が低いためか底を何かに打ち付けたようで、それがさっきのドーンという音のようでした。
そして、これまた砂埃だらけリアウィンドーがウィーンと下がると、中から一人のおじさんが顔を出して、「釣れたかーい?」と聞いてくるではありませんか。
まったくこの釣り場に向いていないような車で、高価な車が傷つくのも厭わずガンガン進んでくるこの姿勢、相当な釣り好きに違いありません。
普通の人なら、車が壊れたり傷つくことを恐れて、こんなにワイルドな乗り回し方はできないはずです。
それだけ釣りに狂っているということなのでしょう。
私は、こういうちょっと釣りにイカれたような人が好きですから、あまり反応が良くないことと、すでにさらに上流部にも車が一台向かったことまで、普段ろくに釣り人と話さない私にしては、かなり細かく話をしてしまいました。
まあ、そんなに釣りが好きならプリウスをボコボコにするんじゃなくて、他の車を買った方が良い気もしますが、家族があまり趣味向きの車を買うことを許してくれないなどの、何か事情があったんじゃないでしょうか。
それに、モンゴルの舗装された道が一切通じていない、かなり奥地の村の周辺でプリウスに乗っている人を見たことがありますから、気合いとテクニック次第ではプリウスでも、かなりオフロードは走れるのかもしれません。
釣り人の中には、時折こういった釣りのためなら多少の犠牲も厭わないような人がいますが、こういった人達をまさに釣りキチと呼ぶのではないでしょうか。
釣りキチのキチとは、放送禁止用語であるキ○ガイのキチですから、それくらいイっちゃってる人ということなのでしょう。
なんでもそこそこ普通の暮らしをして、ちょっと趣味で魚を釣るようなレベルの釣り人ではないのです。
一日中釣りのことばかり考えていて、車がぶっ壊れても魚が釣れればOKというくらいイっちゃってるのです。
何かにこれだけ情熱を注げる人というのは、今の世の中にはそう多くないですし、何も楽しみがない人から比べたら、かなり幸せな人間なのではないでしょうか。
「おじさん、良い人生を送ってるな」と思いながら、再び砂利を飛ばして砂埃を上げ、林道をさらに奥へと爆走していくプリウスを、私は見送ったのでした。