ある秋の朝に、道東地方の河川で釣りをしていた時のことです。
「秋は春ほど数が釣れないから、わざわざ来るもんじゃないな」と後悔し始めていた頃に、川の遥か上流の森の方から、「グォー!」というクマの雄叫びが聞こえてきました。
すると、今度はそれに呼応するように、「ピェー!」とシカがかん高い鳴き声を上げました。
そうするとまた、クマが「グォー!」が叫び、またシカが「ピェー!」と鳴くというように、永遠とクマとシカの鳴き声合戦が続くのです。
こちらからは、かなり距離がありますし、近寄ってくる雰囲気もないので、なんだか楽しくなってしまうくらいでしたが、一体何をしていたのでしょうかね。
クマがシカを威嚇するも、秋の繁殖期で荒ぶっているシカが応戦し続けていたのでしょうか。
それとも、かなり距離があるとはいえ、クマがこちらの存在に気づき威嚇して、それに対してシカが反応していたのでしょうか。
何にしても、草木が枯れた秋の寒々とした原野に「グォー!」「ピェー!」という動物の叫び声が響く中で釣りをするのは、野性味が溢れていて嬉しいものです。
その川では、たまにクマがシカを食べた跡を見つけたり、近くを散歩していた人が近くでクマに襲われたりと、ちょっとだけ恐い場所でもあるのですが、この程度のことだったら調度良いではありませんか。
時々、自分も叫び返したくなってしまいながら、晩秋の1日を原野で釣りをして楽しんだのは、今ではとても良い思い出となっています。
どうかこれからも、このようにクマなどの生き物の息づかいを体感できる、釣り場と自然が保たれることを祈っています。