去年、サッカーのワールドカップを見に行っている若者が、ニュース番組の取材を受けていました。
その人は、仕事を辞めて来ていて、日本が勝ち進み滞在期間が延び大出費となっていて困っているそうでしたが、「心の貯金は増えていますから」というようなことを笑顔で答えていました。
その言葉を聞くと、私は「若いのに開高健みたいなことを言う人だな」と関心してしまいました。
開高健は、節約して海外の本物の自然の中に釣りに行けば、「心に利息がつくから無駄ではない」というようなこと言っていたと思いますが、この若者もかなり似たことを言っていたのだと思います。
サッカーのワールドカップには、世界中から仕事を辞めて来てしまう人が沢山居ますし、中には家を売って来てしまう人さえもいます。
堅実でつまらない人生を送っている人達からすれば、愚かな行為にしか見えないかもしれませんが、彼らは経済的には貧しくなったとしても、それで心が豊かになるのだったら、必ずしも間違った行動だとは言えないのではないでしょうか。
釣りなんかでも、貯金を使い果たしたり、仕事を辞めてまで旅に出る人が、たまに居ますが、そういった人達だって、単純にバカなことをしているとは言えないでしょう。
たとえ魚釣りをすることで、お金や仕事を失ったとしても、心の貯金を増やしたり、心に利息をつけたりすることは、何の冒険もしないような人生を送っている人達には不可能なことなのですから。
お金や仕事は、その気になればいつでも取り返せるかもしれませんが、サッカーのワールドカップとか釣りというものは、今その時にしか経験できない性質のものであるわけですし、様々なものを投げ捨てて飛び出していってしまう人の気持ちが、私はよく分かる気がします。
こういった気持ちは、分からない人には一生分からないかもしれませんが、そういった人達は、きっと心が満たされるということ知らないまま死んでいくのでしょう。
そのままの人生では、心に貯金がたまることは、決してないのですから。