荷物を受け取り、国内線の到着口を出ると、懐かしい案内のお姉さんが待っていてくれた。
「あなたも一緒に来なさい。ここに残りたかったら残ってもいいけど。」
今日の飛行機で帰るのは僕だけであり、その飛行機までも10時間ほどあったので、お姉さんに言われて、釣りバカ野郎集団にまだ着いていくことになった。
空港の駐車場には、観光バスが停まっていて、大量の釣り具と荷物を詰め込み、遠足のように出発した。
いつもこの町に来ても、空港とホテルの往復だけだったので、初めて観光のようなことをするのは初めてだ。
まずは、カシミヤ製品のお店に立ち寄る。釣り帰りの男達がゾロゾロと入っていくには、不自然な感じの、小綺麗で高級そうなお店だが、とってもリーズナブルだ。
日本でカシミヤの物を買うよりも、0が一つ少ないくらいである。
機嫌がよければ、お土産として散財していたかもしれないが、あまりに釣れなくて心穏やかではないので、財布の紐は固く締まっている。
他のショッピングに興味が無さそうな数名と、店の入り口のソファに座ってくつろいで時間を潰した。
ショッピングタイムが終わって、再びバスに乗りこむと、お姉さんが隣に座ってきた。
「なんで釣れなかったの?何があったの?」
と、なかなかキツいことを言ってくる。
キャンプを離れる前にガイドが衛生電話で話しているのを見たので、会社にはすでに僕の釣りの失敗は伝わっているのだろうとは思っていたが、お姉さんにもしっかり把握されているとは。
ホテルにたどり着くと、またバスから大量の荷物を降ろして、他のメンバー達はチェックインをする。
僕は荷物をフロントに預けて、ホテルの一階の食堂で休憩することになった。
もう一人の案内のお姉さんが、しばらく電話で話した後、「社長よ。彼は他の川で釣りを終えて、こっちに向かっているから、ディナーには間に合うと思うわ」
と教えてくれる。
間に合っちゃうのかぁ。というのが、僕の正直な感想である。
今回、僕が良い釣りをして、それを今後日本人の客をもっと呼ぶために利用しようか、という相談をしていたので、この大失敗の状況でガイド会社の社長に会うのは、気が重すぎるのだった。
それから、数人の仲間達と歩いて散策をすることになった。とにかくスリには気をつけろと忠告される。
汗だくになりながら、お寺に向かう。
他の川に行っていた人達とも、初めて交流するが、みんな楽しくて親切な人ばかりだ。特に夫婦で来てる人は、めちゃくちゃ弾けていて楽しそうである。
僕も小屋暮らしと釣りが出来る人と、ハネムーンにでも来たいものだと、羨ましくなってくる。
お寺は、チベット系の歴史のあるものらしく、中には巨大な仏像が立っていた。
しかし、完全にビジネス寺といった感じで、普段から寺を見慣れている僕には、ちょっと胡散臭く見える。
入場料を徴集されるし、カメラを使う場合には、さらにお金をとられる。しかも、その金の取り方が、かなり横柄だ。
そして、カメラ使用料を払った人とは、お坊さんがドヤ顔でツーショット写真を撮ってくれていた。一緒に撮ってくださいと観光客が頼むのではなく、お坊さん自ら、「写真はいかが?」と聞いていたのである。なんだか、ミッキーマウスより積極的じゃないか。
お寺の周りには鳩が沢山居て、その鳩にやるエサを買ってくれと子供達が群がってくる。
噴水には、あまりの暑さに水浴びをする子供で溢れている。
他にも、熱心にお参りをする人、スーツとウェディングドレス姿の新郎新婦など、様々人達が溢れかえっていて、ようやくこの町の生の空気を肌で感じることができた。
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