うつ伏せでお尻をかばい続けたまま朝6時を向かえると、いつの間にか目の前には車が集結していた。
3台の車に分乗して、今まで一緒に暮らしてきた釣り仲間と調理のおばちゃんとお姉さんとで帰ることになる。
車に荷物を積んでいると、朝食用のサンドウィッチを手渡され、食堂の入り口のドアは閉じられていて、「とにかく面倒かけずにさっさと帰れよ」作戦が展開されているようだ。
それなら大人しく帰ろうか、という雰囲気だったが、ルームメートが「コーヒーを飲ませろ」と反旗を翻し、結局食堂を使うことになり、慌ててこのキャンプの調理の人々がお湯を沸かさなければならなかった。
バタバタとガイドと別れを済ませ、全員寝ぼけた感じのまま出発。
ルームメートとお姉さんと同じ車に乗ることになる。
ここからが、長い長い一日の始まりだ。
まずは、来る時には真夜中にスタックしまくった山を越える。
明るいからか、この難所は難なくクリア。
一つ目の町に到着すると、前を行く車が買い物をしようとしているらしく、町の中をウロウロとしたものの、当然、朝も早いのでお店は開いていない。
小さな宿のような所に寄り、少しの酒を譲ってもらったようだ。
こちらの車のメンバーは、酒に対する執着はないので、車に乗ったまま、眠ったり、疲れたため息を漏らすだけだ。
馬ほどではないが、凸凹道を走り続けるのは、お尻に優しくないので、ジワジワと皮の剥がれた臀部が悪化していく。
休憩をする度に、飲み仲間達がウォッカを口に注いでくれるので、それでなんとか乗り切る感じだ。
二つ目の町へとやってくると、小さな売店へ。
こんな僻地のお店でも、食料や飲み物はびっしりと並んでいるし、スニッカーズやファンタなど、日本でも見かけるアメリカ由来の物も多い。
色とりどりの屋根か並ぶこの町では、来たときと同じ子供が同じように自転車で遊んでいる。
若者達は、道端で自動車をいじったりして、ダラダラとたむろっている。モンゴルのヤンキーみたいなものだろうか。
こういった場所に生まれていたら、どんな人生だったのだろうか。
と、時々考えてしまう。
少なくとも釣りはしなかったかもしれない。釣りが出来るような川までは、車で何時間も走らなければないのだから。
町を抜けると、谷間の雪渓のような場所の横を登っていく。雪渓の傍らには、バイクを停めて、いちゃついているようなカップルが座っていた。
こういった場所に住んでいると、デートなどの行為も、やはり自然の中でということになるのだろうか。
前を行く車は、小川に軽くハマり、後ろの車は、いつの間にかパンクして、しばらく行方不明になったものの、僕の乗っている車は、ほぼノートラブルで、まったりとボコボコと跳ね続けて進んだ。
出発してから12時間、ついに舗装された幹線道路に到達。
あまりに滑らかに静かに速く車が走るので、感動すら覚える。
そして、空港のある町に到着してホテルに向かうが、暑くて仕方がない。埃っぽい夏の午後といった感じだ。
大きなベッド、本物の温水のシャワー、NHKまで見られる巨大な液晶テレビ、トイレと水道。
普通の田舎の町のホテルなのだが、長期の小屋暮らしの身にはスイートルームにしか感じられない。
血で真っ赤になったパンツを脱いでシャワーを浴びると、ワールドカップの中継を見ながらゴロゴロとしつつ、深い眠りについた。