夜8時を過ぎて陽が傾き始めた頃、荷物と酒類を満載したラクダが到着して、キャンプに歓声が響き渡る。
酒は皆さんにとって命の水のようなものであるからか、運んできてくれたラクダ達を、しきりに労っていた。
そうこうするうちに、「ご飯だよー」と食堂から声がかかる。
ウランバートルから出稼ぎに来たという、おばさんとお姉ちゃんの二人が、食事の時間や予定が不定な釣り人達の世話を、辛抱強くしてくれるのだ。
食事は、肉も野菜もあるし、テーブルの上には、毎回山盛りのパンが用意されていて、それにつけるジャムやチーズの種類も豊富にある。
これなら、毎食腹一杯に食べられるし、少し太って帰ることになりそうで、とてもありがたい。
これが一人で山奥に釣りに来たとなると、運べる荷物の量には限りがあるので、常に空腹と戦いながら釣りをすることになってしまう。
僕は、日本でもいつもだいたいお腹をグーグー鳴らしながら釣りをしているので、食料の心配がいらないというだけでも、幸せを感じるし、それを準備してくれるおばさん達は、神様のような存在に思えてくる。
とにかく、こういった僻地で、一番感謝しなくてはならないのは、食事の世話をしてくれる人なのだと、僕はいつも思う。
届いたばかりの酒類を持ち寄り、食堂でグダクダとしていると、ルームメイトがすくっと立ち上がり、「釣りに行ってくる」と、一人で出かけていってしまった。
同じボートで他の人が一匹釣ってからは、急に無口になり釣りに集中していたので、けっこう釣り欲が燃え上がっちゃっているのだろうとは思っていたが、今日もまだ釣りをするとは、なかなかの釣りキチらしい。
それから、かなり時間が経過し、あたりが真っ暗になり、酒も回り、もうルームメイトが釣りに行っていることを忘れかけた頃、突然食堂のドアが開いた。
「釣れたから、写真を撮ってくれ」
とルームメイトが叫び、またすぐに暗闇の中に消えて行ってしまった。
全員が立ち上がり、モンゴル人のガイドを先頭に、わっせわっせと真っ暗な草地を川に向かって走る。
ルームメイトが川に漬かっている辺りをライトで照らすと、120センチほどのタイメンが闇に浮かび上がった。
これまた、スイムベイトのようなもので釣れたと言う。
写真を撮って、ガイドがしっかりと魚のケアをして、リリースした。彼は、今までモンゴルで見た中で、一番魚の扱いが丁寧なので、とても関心する。
ルームメイトの機嫌もすっかり良くなり部屋に戻って、僕の撮ってあげた写真を見せてあげると、さらに機嫌が良くなった。
広角レンズを使い、構図にも少し気を使っているので、魚がデカく見えるし、ミラーレス一眼なので、写りも結構良いからだ。
これ以降、僕の写真はメンバー内で評判になり、魚が釣れる度に、「写真撮ってくれ」と呼ばれることになった。
もう釣りがメインではなく、釣れた魚のフックを外してあげて写真を撮る係のようになっていったと言っても過言ではない。
一体、何をしに来たのだろう?と思っては負けな気もするが、どうしても思ってしまうことになる。
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