ほどなくして、先行していた途中まで同じ行程のグループの車と合流して、車列は三台編成になった。
パンク、給油、休憩、橋にゲートを作る民間の関所みたいな所で金をとられる、などなどありつつも、概ね順調に旅は続き、車内にはじんわりと疲労感が広がってくる。
ひたすら遠くに見える虹を追いかけたりして、ちょっとロマンチックな光景が広がっていたりもするのだが、そんなことはもう誰も気にしていない。
夜9時を過ぎてもまだ明るかったが、最後の町を通過する頃には、10時を過ぎ真っ暗になっていた。
ここで、自然保護区のような場所に立ち入るために、釣りのライセンスやパスポートなどねチェックを受けた。これは事前に申請が必要なようで、ここから先は「ちょっと釣りに行こうか」と思って、簡単に行ける場所ではないということになる。
真っ暗な中でも、ガンガンと車は進み、日付けが変わった頃に、タイガの森に包まれた小さな山の麓までやってきた。
ドライバーさん達は、「ちょっと道を確かめて来る」と、真っ暗な山に歩いて消えて行ってしまった。
帰ってくると、「急坂だから車から降りて」と言う。
ハァハァ、と9人のお尻を痛めた仲間達は、歩いて斜面上り、森の中でもう一度車に乗り込んだ。
いつの間にか、雨も降り始めていて、森の中はかなりグチャグチャに抜かるんでんでいる。
そう思った矢先に、僕の乗っていた車の前を走る、先頭から2台目の車が、スタックしてしまった。
無理矢理抜け出そうとすると、ズルズルと斜面を滑り、横転してもおかしくない状態だ。
「こりゃあかんわ」といった感じで、僕の乗っていた車のドライバーさんが、ウィンチを使って、スタックした車を引っ張り上げた。
そこから、慎重かつ大胆に進み、スタック地点を乗り越えると、思ったよりも近くに、先頭の車が停まっている。
当然、待っていてくれたというわけなんかではなく、その車もガッツリスタックしていたのだった。
ドライバーさん達は、なんとかその車を抜け出させると、もうその地点は通りたくないので、轍の無い森の木々の間を、後ろの2台は進むことにした。
そうは言っても、真っ暗な雨の降るタイガの森の中を進むのは、なかなか大変なことで、スタックゾーンを抜け出す頃には、深夜1時を過ぎていた。
こういったことが日本であったら、イライラする人が必ず現れそうなものだけれど、結構みなさん楽しんでいる雰囲気なのが、こういった釣り旅の心地よいところだと思う。
中でも、一番大変なはずのドライバーさん達も「ハハハッ」と大声で笑っていたりして、なんとも頼もしい。
何が起きても、なんとかなるし、へっちゃらだよ、という、この精神を、神経質で心の狭い日本人達には、是非とも学んで欲しい気がする。
スタック山を越えると、ほどなくして、その日のキャンプ地に付いた。車内では自然と拍手が沸き起こり、みんなでドライバーさんを抱きしめてねぎらった。時刻は、
もう深夜2時を過ぎていた。
先頭の車に乗っていた3人は、これからここで暮らして釣りをすることになる。
車で来られるのは、ここまでなので、ドライバーさん達ともお別れだ。
余った缶ビールをドライバーさんにあげると、「日本人がビールくれたよ」と嬉しそうに、三人は闇の中でくつろぎ始めた。
壁一面が巨大なタイメンの写真で埋め尽くされた食堂で、夜中まで待っていてくれたおばさんにスープをもらうと、さすがに今日は酒盛りをする雰囲気もなく、すぐに各々が小屋のベッドで眠りについた。
「明日はタイメンだぜ!」
寝る前に、ハンサム君は嬉しそうに、そう叫んでいた。
疲れ切っていても、まだまだみんな希望に満ちている。