釣りにゃんだろう

猫のように気まぐれに 独断と偏見に満ちた釣り情報をお届け

青空とパイク 前編

無数の魚の歯跡だらけになった、ラパラのフラットラップを、部屋の天井に向けてかざしてみる。

わずか2時間ほどで、この状態になった日の、どこまでも深く広い青空は、今はもう見えなくて、記憶の中のどこか隅っこに隠れつつある。

このルアーの傷をじっと眺めてから、軽く目を瞑れば、その記憶を隅っこから引っ張り出してきて、少し鮮明に思い出すことができる。

f:id:nyandaro:20180513114921j:plain


その日、通り道にあった、それほど有名でもないちょっとした湖に、パイクが生息しているという情報を、一緒に旅をしていたモンゴル人から得た。

「絶対に釣ってみたい憧れの魚」というわけでもないけれど、日本に住んでいる僕にとっては珍しい魚だし、サイズも良いようだし、インパクトのあるルックスだし、一度は釣ってみたいと思った。

「それならば」と、モンゴルの人が、シーズンオフで片付けをしていた湖のほとりの宿泊施設の人に声をかけてくれ、船を出してもらえる手配をしてくれた。

宿屋のおじさんが、声をかけてから、2分程度でちょちょっと準備をし、ライフジャケットを抱えて、とっとっと歩いて出てきた。
「一応、ちゃんと、こんな物があるんだ。浮くのか分からないけれど」などと、関心しながら、おじさんの後を着いていくと、湖の岸辺にボートが、無造作に一艘転がっていた。

「腐敗の進んだ薄い装甲のアルミボート」といった感じで、穴が開いている部分がありそうでもある。
それを見て、ちゃんと浮くか分からなくても、股紐を通して真面目にライフジャケットを着ることにした。

f:id:nyandaro:20180513115056j:plain

そんな風にして出船準備をしていると、バイクに乗ってサングラスをかけた若者が、ブイブイと草原を疾走してやって来た。

僕達の横まで来るとバイクを停め、「釣りかい?俺もこれからやるんだぜ」というようなことを、どうも言っているらしい。
見るとロッドを持っているし、手にしたプラスチックケースには、ルアーをぎっしりと詰めてきている。
その中身を見せてもらうと、特大サイズのニルズマスターのインビジブルなどが入っていた。
これは、一級品の良いルアーだ。この人は、なかなかの釣りキチに違いないと、僕は彼を一瞬で認めた。
僕も、ワンサイズ小さいのなら持っているので、それを見せると、「いいぞ、いいぞ。お前も分かってるじゃないか」というような、ことを言っているようだった。

彼のマイボートも、そこらへんに転がしてあるらしく、一人でささっと準備をすると、僕達よりも早く沖に出ていってしまった。
準備が早いというのも、いかにもデキる奴そうだ。

f:id:nyandaro:20180513115146j:plain

モンゴルの釣りキチ兄さんから遅れることしばし、僕達もボートを引きずり運び、湖に浮かべた。
空はどこまでも青く、その色を映した湖面もどこまでも青い。気が遠くなるほど、青い世界だ。

おじさんが、その青い水に2本のオールを突き刺し、一生懸命に漕いでくれて、ボートは進んでいくわけだけれども、そのオールがまたなかなかイカしている。
一本は、朽ちかけているものの木製のオールで、もう一本は、単菅パイプのような金属製のただの棒だ。

おじさんは、すぐにぜいぜいはぁはぁと息が上がってしまい、「代わってあげた方がいいのか?」と、思い始めた頃に、船上ではモンゴル語で「ここら辺で良いんじゃないかな」というような会話が交わされ、釣りを開始することになった。

水は超クリア。地形の変化などもなく、釣りに何の手掛かりもない、湖の真ん中をボートはチャポンチャポンと音をたてながら漂っている。


つづく