私も釣り人ですので、「春が来たら、あれを釣ろうかな、あそこに行こうかな」などと、毎年冬の間には山ほど計画を練るわけですが、近年は実際に春になってみると、「わざわざ釣るほどの魚でもないか。そもそも生き物を針で引っ掛けるなんて、褒められた行為じゃないのだし、釣りをしないに越したことはないのだ」という考えが湧き出てきて、ほとんどの計画は埋もれ立ち消えてしまうのです。
こういった傾向を踏まえれば、そろそろ釣りを引退しても良い気がします。
釣りをやめれば、無駄な体力や時間やお金を使うこともなくなるので、これは歓迎すべき傾向なのでしょう。
ただ、やっぱりそう簡単には抜け出せないのが釣りの世界の沼のようで、せっかく春なのだから、イトウくらいは釣っておこうかなと思ってしまい、重い腰を上げて久しぶりに釣りに行ってしまったわけです。
他の釣りはやる気が出なかったのに、イトウ釣りだけは行ってしまうということは、それだけ私はこの巨大で希少で、なんだか惚けた優しい顔をしている魚が好きなのでしょう。
さて、「ちょちょっとイトウでも釣るか」と思ったら、やはり道北に行くのが最適ですので、猿払川、猿骨川、声問川、天塩川などを、釣れて満足したら移動するような感じで、ぐるっとスタンプラリーのように回ってみました。
春のイトウ釣り。
産卵を終えたイトウは、川の下流に下ったり、海に帰っていくわけですが、その途中でトゲウオやサケ稚魚を食べまくって休憩しながら移動しているようです。
こういった休憩場所は、だいたい決まっているようで、その場所さえ知っていれば、いくらでも岸際でボイルしているイトウを見つけることができます。
見つけることができれば、後は釣るだけなのですが、そういった場所にはひっきり無しに釣り人が来るわけで、結構スレていたりして、あまり簡単には釣れないわけです。
特に大型のイトウほど警戒心が強いらしく、1メートル以上の魚を何匹も見かけても、ことごとく無視されたり、ラインを嫌がられて逃げられたりするわけです。
ルアーか、フライか。
こういった魚を釣るには、やはりフライの方の方が有利なようです。
ボイルしている場所に、タイミングよく、そっとゾンカーなど落とせれば、結構イージーに釣れてしまうものです。
ボイルしている魚は底に這いつくばっているわけではありませんし、ラインを嫌がる魚も多いので、あまり重いシンキングのラインは必要ありませんし、キャストもできる限りしない方が良いようです。
気配を殺して静かにボイルを待ち、ウェイトを巻いたフライを、ロールキャストもしないようにして足元に静かにポイッと落とすだけというのが、結局一番釣れたりします。
こうなってくると、もうのべ竿でも良い気がしてきますし、「フライフィッシングをやってる感」はゼロで、餌釣りでもしているような気もしてきます。
ルアーで釣る場合にも、似たようなことをするわけですが、フライほどはヒット率は高くないようです。
やはり人工の素材でできたルアーと、イトウが食べようと思えば食べられる自然の素材でできたフライの、素材の差でしょうか。
ただ、操作性はルアーの方が良いので、魚に狙いをつけやすくストレスも少なく、やっていて気分は良いですね。
一生釣れないんじゃないか?
よく、こういった状況の場所で、巨大な重いスプーンやプラグを、川の真ん中に向かって、ひたすらボチャンボチャンと投げている釣り人を結構見かけます。
イトウは岸際に居て、岸に小魚を追い込んで食べているわけですし、とても小さな魚を食べているので、この釣り方ではなかなか釣れないのではないでしょうか。
河口付近の流心に魚の居るポイントか、川の真ん中で餌を獲るちょっと変り者のイトウでもいない限り、まず釣れないでしょう。
でも、滅多に釣れることはないはずなのですから、もしも釣れてしまったら、それはそれでとても嬉しいから良いのかもしれません。
「もしかしたら、釣れる確率をあえて下げて、イトウを幻の魚にして、釣れた時の喜びを倍増させるための方法なのかもしれない」などと考えて眺めながら、私は釣りをしているわけです。
そうこうしていると、ぽつりぽつりと釣れるわけですが、あまり良いサイズは釣れず、90㎝程度が最大でした。
もっと大きい魚は、いくらでも見かけますし、まだまだ満足してはいけないサイズかもしれませんが、やはり川の下流域で釣れる海と川を行来しているであろうイトウは、ぶっとい体型をしていて、その迫力に圧されて、「まあ、これくらいでも良いかな」と思ってしまうわけです。
自然環境の荒廃が進み、釣り人にいじめられ続け、昔よりイトウは減り小さくなったとは聞きますが、こういった海と川の繋がりを感じさせる魚体を見かけると、「まだなんとか、北海道の自然も持ちこたえているのかもしれない」と、ホッとするよう気がしないでもありません。
いつまでホッとしていられるかは分からないくらい、状況は悪いことには間違いないのですが。