人間を乗せている馬が7頭と、乗せていない馬が3頭、マラソンの集団のように、立ち位置を変えながら、野を越え山を越えて進んでいく。
来る時には、ラフティングで半日かかった距離だが、それは途中で釣りをしながら来たので、どれくらい距離があったのか、どうもはっきりしない。
ドッドッドッドッと、心地よく馬の上で身体を跳ねさせているのだが、釣りに行くために乗った時よりも、少し衝撃が大きい気がする。
その時は、鞍の上にクッションのようなものを敷いてもらっていたのだが、今回は革張りの鞍オンリーだ。
馬自体は、おそらく前回と同じ馬で、言うことを良く聞き、小さめの体で一生懸命走ってくれている。
一時間ほど走ると、川岸にはフランス人運営のキャンプのエンジン付きアルミボートが見えて、二人のフライフィッシャーが黙々と釣りをしていた。
やはりエンジン付きのボートがあるので、かなり広範囲に釣りをしているようだ。
草原、森、川、崖、様々な場所を駆け抜けていくのは気持ちが良いのだが、確実にお尻の皮がやられている感覚が襲ってきた。
まったく、最後まで気の抜けない国だ。
三時間半ほど馬で走り続けると、開けた草原に出て、どうやら今夜泊まる上流部のキャンプが近づいてきたようだ。
しかし、よくよく考えてみると、往路のラフティングで出発する時は、大きな支流から漕ぎだしたはずだ。
今走っているのは、支流のある側の岸である。つまり、こちらからキャンプに向かうには、必ず支流を渡らなければならない。
馬で渡れるような川では無かったのだが、と心配したままその支流にたどり着くと、川原にはゴムボートがポンと置いてあった。
馬とは、ここでお別れのようだ。彼らは、こちら岸に住んでいるのか、それとも上流に巻いて川を渡らされるのだろうか。
ガイドと本職が酪農家であるルームメートは、ラクダに川を渡らせる作業のために、上流に歩いていってしまった。
このボートでは、おばちゃんと飲み仲間達とで川を渡ることになる。
まずは、空気が不足気味なのでポンプで補充するが、何ヵ所か確実に空気が漏れている。
そんなことは気にせずに、川に漕ぎだし、下流に流されながら、なんとか渡ることができた。そこはちょうど、フランスブルジョアキャンプの目の前だ。
ボートは、後で車で回収されるようなので、川原に放置して、そこからは歩いて行くことにした。
そこで、おばちゃんが「ちょっと行ってくるわ」と、フランスブルジョアキャンプの敷地の中に入っていった。
傾いてきた陽射しの中で、ポツンとたたずんで、おばちゃんを待つ。
その様子を写真に収めようと、カメラを取り出すと、レンズから変な音がして、フォーカスが合わない。レンズを交換すると、無事に写真が撮れた。
数時間にわたる馬の振動で、レンズが壊れたとしか思えない。
やはり油断できない国だ。今日だけでお尻とレンズがやられてしまった。
おばちゃんが戻ってくると、「ちょっと寄っていこう」と言う。
その言葉に従って、立派な門をくぐりフランスブルジョアキャンプの中に入ると、食堂らしき大きなおしゃれな建物の中から、働いているモンゴル人のお姉さん達が出てきて歓迎してくれた。
それから、缶ビールを頂き、しばらく人様の庭先でバカ話をして休憩するのだった。
ずいぶんと長いことお邪魔してから、また歩いて質素な我々のキャンプに向かうと、すでにルームメートはたどり着いてベッドに倒れていた。
もう長いことあっていないような気がするハンサム君達とも、ここで再会した。
食事を済ませたら、お尻が痛くないようにうつ伏せになって眠りにつく。
もうお尻の皮が剥がれて、でろでろになっている。
正直、とても暗い気持ちなので、さっさと家に帰りたいのだが、まだまだ道は長いのだ。