どうにも早朝に布団から抜け出すのが難しくなってきた。
目を覚まして、釣りに行こうとは思うのだが、疲れと「どうせ釣れない」という諦めから、起き上がりもできなくなる。
そうしているうちに、すっかり日が上ってしまったので、カンカン照りになる前の一時間ほど釣りをしようと、ビーサンで歩いて下流に向かう。
ホントに良い流れだ。
岸際には無数のグレーリングが群れているし、瀬の中からは今にも良いサイズの魚が飛び出してきそうだ。
しかし、あれこれ手をつくしても、全く魚の反応はないのだ。
暑くなってきたので、さっさと引き上げることにして、のんびりと川原を歩いていると、これから釣りに行くというルームメートとすれ違った。
小屋に帰ると、飲み仲間達も珍しく昼間に釣りに出かけていく所で、ハンサム君達はすでにこのキャンプを引き払って出発した後だった。
もう誰も飲み騒ぐ人もいなくなり、急激に寂しげな空気が流れてきた。
静まりかえったキャンプをうろうろしていると、空室になった隣の部屋を掃除していたおばちゃんが「何か一緒に食べない?」と誘ってきた。
呼ばれるままに食堂に向かって、お茶やスープやパンをいただく。
「今日は私とあんたしかいないのよ」とおばちゃんは言う。
ガイド達はハンサム君達を送りに上流のキャンプに向かい、もう一人居た調理のお姉さんもついでに引き上げていったらしい。
残った4人の釣り人も、みんな出かけている。
窓の外をのびのびと馬がうろつくのを眺めながら、おばちゃんと食事をする。
おばちゃんには、二人の子供がいて、ウランバートル
で帰りを待っているらしい。
写真を見せてもらうと、二人ともまだとても幼い。おばちゃんだと思っていたけれど、この人はもしかしたら年下なのかもしれない。
もうすぐ、この辺鄙な地での出稼ぎから帰ることができるので、おばちゃんはとても機嫌が良さそうだ。
終わりが見えて食材を使いきれるからか、スープの具も多い気がする。
静かで平和な時間。
もう釣りなんてどうでも良いから、早くおばちゃんを娘達に会わせてあげたいものだと思う。
虫に刺され続け、早朝から夜中まで、気まぐれな釣り人達に食事を与え、娘達にも会えない。
しかも普段は都会に住んでいるのだから、なかなかハードな仕事だ。
もう何度もこの仕事をしているそうだが、いつもどんな気持ちで家を出てくるのだろうか。
僕も家を遠く離れて働くことがあるので、その悲哀が僅かながら分かる気もする。