フランスのリールメーカーミッチェルから過去に発売されていた、ミッチェル304というリールがあります。
インスプールで円形のボディはブラック一色に塗装されていて、現代のギラギラしたおもちゃのようなスピニングリールと比べると、圧倒的にお洒落なデザインです。
現代のスピニングリールがパイプ椅子なら、ミッチェル304はデザイナーズチェアと言っていいくらい、外観の美しさには差があると思います。
21世紀のこの時代に、ミッチェル304と釣った魚を並べて写真を撮れば、どんなに粋なことだろうかと、私は思ってはいるのですが、実はまだこのリールは持っていません。
人気のあるミッチェル408などと比べれば、ずっと安く手に入るものなので、その気になれば、いつでも買えるのですが、なかなか手を出せないでいるのには、ちょっと理由があります。
まず、このくらいのサイズのミッチェルのリールは、すでに300と410を持っていて、あまり必要性はないのです。
ただでさえ、私の300や410は出番のあまりないリールなのに、ここに304がきたら、またさらにそれぞれの出番を奪い合い、使う頻度が減ってしまうでしょう。
私は、リールは魚を釣ってこそ価値があると思っているので、いたずらにコレクションするのは、違うと思うのです。
それから、ミッチェル304というリールは、現代の基準から考えたら超ローギアのリールです。
私は、同じようにギア比の低いミッチェル300を持っていますが、なかなかそのスローなリトリーブ速度に慣れず、正直ちょっと苦手なリールです。
ですから、ミッチェル304を買っても、結構苦戦しそうだな、と思ってしまうのも、なかなか手を出せないでいる理由であります。
まだまだ現役選手です。
そんなわけで、私はまだミッチェル304を使ったことはないのですが、実際に使っている人には釣り場で出会ったことがあります。
その釣り人は、数人の元気な老人の集団の中の一人だったのですが、まずその集団がなかなかファンキーでした。
普段はバラバラの所に住んでいる古い友人同士だとかで、南米に住んでいる人までいました。
そんな仲間同士で集まり、もう足腰が弱ってきた人も居ることだし、人生最後の釣り旅行をしようという趣旨で北海道に来たと言うのです。
もう映画になりそうな話じゃありませんか。
そんな老人達が持っているタックルは、もちろん年季の入ったものばかりで、フライとルアーのタックルを、ごっそりと抱えています。
そんな中に、ミッチェル304を持っている人も居て、特徴的な外観が一際目立ち、なんともカッコ良く見えたのでした。
このようなリールを我々はオールドタックルと呼びますが、その人にとっては、特別古い物として入手したわけではなく、製造されていた頃にリアルタイムで新品で買い、今まで何十年も使ってきたのではないでしょうか。
その古ぼけた渋い円形のリールからは、我々が趣味で古い道具を使うのとは違う、現役の本物のカッコ良さが出ている気がしました。
そんな本物のカッコ良さを身につけるためには、私が死ぬまで今使っているリールを使い続けて、ようやくなんとかなるかどうかのレベルでしょうか。
私も人生最後の釣り旅行をむかえる日まで、今持っているリールを大切に使い続けたいと思う出来事でした。