いつまでも続くような気がしていた、ここでの釣りももうすぐ終わりだ。
明日の午後には、このキャンプから全員撤退すると言う。
当初の予定では、あさっての早朝だった気がするが、まあ気にしないでおこう。
つまり、夕方に釣りができるのは、今日で最後なのだ。
ルームメートは、昼間は全くダメだったようだが、これから馬に乗って遠くまで釣りに行ってくると、まだまだ気合いが充分だ。
僕は、もう充分な気合いを持ちあわせていないので、今日も近場の昨日と同じポイントに向かうことにした。
釣りを始めてすぐに、80センチほどの魚が、スイーッとやる気なく足元までルアーを追いかけてきた。
こういう魚は釣れないんだよなぁ、とは思いつつも、手を変え品を変え、その場所をしつこく攻めてみるが、もう追いかけてくることもなかった。
日が沈むと、岩山の影から真ん丸い月が上ってくる。しかし、月はすぐに雲に隠れて、一気で暗くなった。
昔出会ったモンゴル人が、タイメン釣りには、闇夜が良いと言っていたような気もするし、満月の夜が良いと言っていたような気もする。
夜釣りには、あまり興味が無かったので、どちらだったか忘れてしまった。
どちらにしても、今日も魚も釣れる気配はなかった。
まだ明日の朝もあるが、こうして、この旅は目的を果たせないまま終わっていくとしか思えない。
雲を抜けて顔を出した月の明かりに照らされながら、歩いて小屋に帰っていく。
一体何だったのだろうか。
こんな遠くまで、大金をかけてやってきて、長いこと暮らして、何一つ良いことがなかった。
これでもう、きっぱり釣りは最後にしても良いのではないだろうか。
無駄なお金を使わなくて済むのだし、もう少し落ち着いて真面目な人生を送ることができる。
とりあえず釣り具を処分しても良いのだけれど、売ってお金になるような物は持っていないしなぁ。
などと考えつつ、部屋に入りベッドに倒れこみ、固く目を閉じていた。
0時を過ぎた頃、ルームメートがようやく帰ってきた。
「今日はダメだった。完全にダメだ」
珍しく素直に負けを認めて帰ってきたらしい。
こっちは、2週間完全にダメなんだから、相当気が滅入っているまま、このベッドでの最後の眠りについた。