釣り人の中には、他の釣り人を下に見たがるような人々が少なからず居るものです。
そういった人々は、有名な釣り人などを下手だと決めつけたがるものですが、釣り人であった作家・開高健についても「釣りが下手だったのではないか」と言う人が沢山居ます。
はたして、開高健は本当に釣りが下手だったのかどうか、今回は少し考えてみましょう。
開高健が釣りが下手だと主張する人の理由には、以下のようなものがあります。
まず、映像などを見ると、ドラグを締めすぎていたり、少し道具の扱いなどに下手なところがあること。
それから、魚の沢山居るような場所まで行っているのに、なかなか釣れないことが多かったこと。
主にこれらの理由から、開高健は釣りが下手だったと言われています。
それでは、これらの点について少し考えてみましょう。
まず、道具の扱いなどについてですが、ちょっとおかしなところはあるものの、まあ普通なのではないでしょうか。
今の時代でもロッド一つ正しく握れない人が、釣り場やテレビの中に沢山居るわけで、それと比べればずっと良いのではないでしょうか。
しかも、あの時代の釣り人達は、今とは比べ物にならないくらい情報や知識の少ない状態でルアーやフライの釣りを始めたのですから、そこを加味すればかなり上手な方なのではないでしょうか。
それから、なかなか魚が釣れなかったことが多かったということについてですが、これについては釣りの腕以前に、季節や場所の選定が間違っていたということが大きいのではないでしょうか。
いくつか本を読んでみれば分かるのですが、今の時代の常識から考えると、ちょっとシーズンを外していたり、状況の悪い場所に行っていることが少なからずあります。
今のように、誰でも世界中の魚釣りのベストシーズンがクリック一つで分かる時代ではなかったのですから、「ベストシーズンにベストな場所に行く」ということは、とても難しかったのではないでしょうか。
そういった状況でも、なんとか魚を釣ることも多かったのですから、それほど釣りが下手だったとは思えません。
「ルアーやフライ釣りを始めた頃は、他にやる人が少なかったから威張って人に教えていられたが、すぐにやる人が増えて世界中に釣りに行くようになってしまったので、もう威張ることはできなくなった」というようなことを、開高健自身もエッセイに書いていることもあり、「心はアマチュア、腕はプロ」などと威勢のよい言葉を残した反面、自分の釣りの腕に関しては、気にしているようなところもあったようです。
しかし、昔の大雑把なタックルで、あれだけ大きな魚を沢山釣り上げているのですから、決して釣りが下手だったとは言えないのではないでしょうか。
いくら今よりも魚が沢山居て恵まれた時代だったとしても、掛かった魚をランディングするには今以上に技術が必要だったはずでしょう。
しかも、それを、限られた取材期間の中、カメラの前で釣り上げるというのは、とても大変なことだったはずです。
以上のような考えから、私は開高健が釣りが下手だったとは思えないのです。
そうは言っても、めちゃくちゃ上手だったのではないかとは、とても思えないわけで、これも釣り師の僻みというやつなのでしょうか。