開高健が、「河は眠らない」というビデオの中で、このようなことを言っている。
「日頃サンマばっかり食べて生活を節約してですね、アラスカへ来て、一生の思い出になるような魚を釣りなさい。
これは一回投資しただけで、何千万回と甦って利息が付く。
精神に利息が付く。
無駄ではない。
まったく無駄ではない。」
僕はまだアラスカには行ったことがないが、節約して海外に釣りに行き、一生の思い出になるような素晴らしい魚を釣ることには、大賛成だ。
そして、それは本当に決して無駄なことではないと思っているし、そうであると信じたいと思う。
「何千万回と甦る」という言葉の通り、海外の大自然の中で、信じられないような大きさの魚を釣ったという経験は、いつまでも心の中で生き続け、何度でも鮮明に魚はジャンプを繰り返し、感動を呼び起こしてくれる。
健やかな時も、病める時も、自分が生きている限り、その魚は心の中で跳ね続けてくれる。
それは、日常を生き抜いていく力にならないとも限らない。
いくら物凄い魚を釣ったからといって、世界が変わることはないけれど、人生が救われることは充分にあるのだ。
これほど強烈な感動を胸に刻み付ける釣り経験というものは、身近な小さな自然の中で、小さな魚をいくら釣っても、得難いものだろう。
身近な釣りにも、魅力があることは否定しないけれど、そのような釣りを何万回繰り返しても、心の中を跳ね続けるような、あの魚達には絶対に出会えない。
河は眠らない。
あなたが起きている時も、寝ている時も。
健やかなる時も、病める時も。
生前も死後も。
あなたの心の中を、あの河は絶えず流れ、いつまでもそこで待っている。
滔々と水と大魚をたたえ、眠ることなく流れ続けている。
ただし、この星の破壊しつくされた広大な大地に、染みのように僅かに残った自然が、これ以上失われない限り。
それは、もういつ失われてもおかしくない状況だ。
だから、眠らない河と大魚を自分の中に取り込み、あなたの中に生き続けさせるためには、毎日節約して、一刻も早く旅に出なくてはならない。
時は一刻も無駄にはできないのだ。
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