釣りにゃんだろう

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風とラパラ

小学生の高学年の頃に熱をあげていた釣りを、いつの間にか、全くしなくなって、10年が経っていただろうか。
中学生から大人なるにつれて、部活だ、バンドだ、酒だ、女だ、病気だと、他のことに時間をとられることが増えていき、いつの間にか年に一度も釣りをしなくなっていた。

 

それでも、ちょっと旅をして、車窓から川や海を眺めれば、「あそこは何か釣れそうだ」とか、「こうキャストして、こうリトリーブして」とか、すぐに考え出してしまう「釣りキチ目線」は失っていなかった。

その当時も、毎月何度か訪れる機会のある静岡県西部の町で、ある川に架かる橋を渡る度に、「いかにもシーバスが釣れそうだ」と眺めては、心の中に眠る釣りキチ精神を揺さぶられていた。

5月のある日、とうとう僕は「○○川、シーバス」と、その川の名前を、Googleの検索画面に打ち込んでしまった。

そうして見ると、やはりその川でシーバスは釣れているようで、毎晩のようにそこで釣りをしている人のブログなどが出てきた。
実際にそこで釣れたという魚の写真を見た瞬間、長いこと忘れていた「狙った魚を何としても釣りたい」という高熱のような気持ちが、ついに復活してしまったのだ。

 

その町に行く用事のある前日。
僕は釣り具屋に行き、長いこと釣りをしなかった間に、いつの間にか誕生していた「フィッシュグリップ」なるものと、ナイロンラインを150メートル買った。

二つ合わせて2000円ほどで、思ったよりも安く済んだので、その後、当時仲良くしていた絵描きの女の子とお茶をしながら、「いい買い物をしたんだ。明日は釣りをするんだ」と、小学生の頃に戻ったかのようにご機嫌に語っていた。

家に帰り、ラインをリールに巻き、いくつか使えそうな古いルアーをケースに積め、小学生の時に買ってもらった安物の振り出し式のパックロッドを点検し、「さあ、今日は早く眠ろうか」と思った瞬間。
昼間会っていた女の子から、突然連絡がきた。
なんでも、釣りをしている様子を見てみたいから、ついていきたいと言う。

興味がないことには、全く付き合わないし、そのくせ、自分が興味があることには、どんなことにも貪欲に頭を突っ込み、絵を描くためにアイデアが思い浮かべば、何かよくわからないメモをとっているような人だったので、釣りに何か引っ掛かることがあったのだろうか。
とにかく、断るわけにもいかないので、連れていくことにした。

 

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次の日の夕方。
まずは、その川の河口近くから釣りを始め、上流に向かって、二人で歩きながら彷徨っていった。
1、2キロ歩いて、川に国道の橋が架かる所に出た。橋の下には、人が生活している気配があるような、高速道路並の、かなり大きな橋だった。
よどんだ橋桁の周りの水面には、時おり波紋がおきて、生き物の気配が溢れている。

「こういう所を探してたんだよ」
僕はそう言うと、二人で藪をこいで土手を降りていった。

ルアーは、ラパラのカウントダウン。
僕が子供の頃は、ラパラの平行輸入品が、釣り具屋のワゴンに溢れていたので、今よりも安くかえたものだった。
その頃の生き残りを、いくつか持ってきていた。

15年ぶりくらいに、水の中に飛び込むルアー。
橋桁の横に着水したら、ゆっくりと引いてくる。
ブルブルと震えながらこちらへ向かいつつも、川の流れに押されて、その進路は緩いカーブを描き、ルアーは橋の影の中に入っていく。

その時、ごごっと違和感があったので、反射的にロッドを立てた。
グイグイと数回、引きを感じた思ったら、バシャと魚が一発飛び跳ねて、バレてしまった。銀白色の魚体だったので、フッコだろうか。

僕は、振り返って、その一部始終を少し高い位置から見ていた女の子の方を見た。
「見たよ!でかかったね!」
興奮気味に彼女はそう言った。僕は手を震わせながら、ひとつ頷いた。

 

 

結局、その日は、それ以上魚の反応が無く、あまり長い時間付き合わせても悪いので、陽が暮れる頃には撤収した。
しかし、あの魚のジャンプする姿が、脳裏にこびりついてしまった僕は、それから近くに来る度に、その川で夜を明かすようになった。
コイ、ウグイ、ナマズ、キビレ、フッコと、ドブのような流れから、様々な魚が姿を現した。

始めのうちは、その結果を彼女にメールをして、祝福してもらったりしていたのだが、いつの間にか、彼女は他の人に興味が移ったようで、会うことも連絡をとることも無くなっていた。f:id:nyandaro:20180423143228j:plain

それでも、僕は釣りを止めずに、気づけばどこまでも遠くへ行き、大きな魚を釣ることに、情熱を注いでいた。

そんな中で、時々、釣りを再び始めたあの日を思い出して、リールのハンドルを回す手を止めて、後ろを振り返ってみた。
けれども、どこまでも行っても、どんな魚を釣っても、そこにはもう誰も居なかったし、いつでも冷たい風の音がしているだけだった。

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