さて、宇宙パワーシールを貼ったタックルを持ちながらも、半ば諦めた気持ちでモンゴルに到着したわけですが、やはり現地の状況は芳しくありません。
キャンプ地に一番近い大きな町の最高気温が37度になっていたりして、「稚内より北なのに東京より暑いじゃないか!」といった、おかしな気候です。
実は、こうなることは薄々分かっていて、それで私はあまり来たくないような気分だったのです。
今回釣りに来たのは、モンゴルの東部であり、今まで私は来たことがない地域と水域です。
今までは、北西部の標高が高い地域に行くことがほとんどでしたが、そこよりも明らかに標高が低く、平均気温が高そうな場所なのです。
標高が高い場所で暑過ぎてダメだったのに、標高が低い場所に行ってよいことなんて、普通に考えればあり得ない話じゃないでしょうか。
川に着いてみると、37度ということはないものの、日中はなかなかの暑さです。
そんな中で、ただ1人の日本人として外国人に囲まれて釣りをしてみると、やはり酷いものです。
2、3日釣りをしてみても、とにかく魚の気配がなく何も釣れません。
ようやくメンバーの1人がルアーで魚を釣ったと思ったら、日本に居るのにそっくりなナマズなのです。
ナマズなんて、どう考えても温かい水を好みそうな魚ではないですか。
日本でイトウを狙っていてナマズが釣れるなんてことはないわけで、温暖化で生態系が変わってきちゃってるんじゃないかと思ってしまいます。
「これは終わったな」と思い、他のメンバーの皆さんとヤケ酒を呑み交わした翌日、今まで行ったことがない川の上流部に行くことになりました。
その辺りは湿地帯になっていて、川は泥底で複雑に枝分かれしカーブを繰り返していて、川岸には柳が繁っています。
北海道東部の湿原河川の泥沼具合を少しライトにした感じで、今まで釣りをしてきたモンゴルの川とは随分と様子が違います。
草木が繁っていて釣りづらいですが、道東の川のようにドン深ではないので、多少はウェーディングすることができます。
イトウ釣りのようでイトウ釣りではない不思議な気持ちで釣りをしていると、すぐ下流側の分流が本流と合流している淀みで釣りをしていたメンバーが、突然「タイメーン!」と叫び声をあげました。
駆けつけてみると、明らかに小物ではない魚が掛かり、ロッドがしっかりと絞りこまれています。
それでも難なく魚を寄せてくると、でっかいスプーンをがっつりと咥えた104センチのタイメンでした。
タイメンとしては、まあまあサイズですが、諦めモードだったところの一匹に、サッカーのワールドカップで得点でも決まったかのように一同大盛り上がりです。
それにしても、流れの緩い淀みから釣れるなんて、この川はイトウ釣りっぽい環境ですが、魚もイトウのような性質を持っているのかもしれません。
瀬からヒラキのあたりで釣れることが多かった今までのモンゴルでの釣りの考え方をやめて、イトウを釣るつもりで釣った方が良いのかもしれないと、私は気づいたのでした。
後編へつづく。