日本の有名な釣りのポイントというのは、シーズン中は釣り人でごった返していて、殺伐とした空気が流れていることも少なくありません。
今回は、そんな現場で出会った極限状態のお話です。
日本一お金持ちの村で。
ある春の日の夕方、私は日本一平均所得が高い村である猿払村の道の駅の駐車場に車を停めて、ノートパソコンを広げてちょっとした作業をしていました。
駐車場の前には国道が走っていて、車が行き交うのが見えているのですが、そんな中をちょっと珍しい車が、スーッと走り抜けていきました。
小さめのパトカーです。
地元のお巡りさんかなんかが乗っていそうな、小型車のパトカーでした。
「何かあったのかな。泥棒でも出たのかな」と、この辺りでは、あまり見たことがなかったので、私はちょっと不思議に思っていました。
翌日、近くの川で出会った釣り人と、魚が釣れないので釣りもせずに長々と世間話をしていると、前日にパトカーが走っていた理由が分かったのです。
この村にある猿払川は、日本一イトウが沢山居る川で、その河口付近は日本一有名なイトウ釣りのポイントです。
シーズンの春と秋には、日本中から釣り人がやってきて、おそらく日本一混むイトウ釣りのポイントでしょう。
そんなポイントで、前日の夕方に隣あって釣りをしていた釣り人が、ラインがクロスした状態になり、絡まってしまったらしいです。
こういった場合は、普通はお互いに「すいません~」と謝り合い、すぐにほどいて釣りに戻るものでしょうが、この時は違ったらしいです。
お互いに「お前のせいだ」と言い合いになり、どつきあいのトラブルに大発展。
本人達が呼んだのか、周りの釣り人が呼んだのか、警察が出動してくる事態となったようです。
なんとも大人げなく、みっともない話ではありませんか。
まあ、釣り人には、こういった大人げなくみっともない人が、沢山居るのも事実ですから、仕方のないことかもしれません。
さて、こういった事件が起きてしまったことから、釣りの有名ポイントの性質というものが、ちょっと分かってくる気がします。
まず、隣あって釣りをしていた釣り人が、ラインを絡めてしまったとのことですが、この時点でちょっと普通は考えられない状態です。
いくら混んでいるポイントとは言え、混んでいる管理釣り場や鮭釣りでもない限り、そんなに釣り人が密集しているわけではないので、普通に釣りをしていれば、まず他人のラインに絡まるなんてことはないはずです。
しかし、この猿払川でならば、十分にあり得ることだと、私は思います。
それは、一度でもこの川に来たことのある人ならお分かりいただけるかと思いますが、かなり釣りの下手な人が多く見られるからです。
自分の投げたルアーが、今どこを流れているのか、周りの人がどこを流しているのか、そういったことが理解できていなさそうな人が、沢山見られます。
ですから、時にはラインが絡まるようなことが起きても不思議ではないのです。
こういった人達は、初心者や子供ではなく、それなりに歳をとった釣り人であることがほとんどです。
おそらく、釣りが趣味ではあるが、日頃からルアー釣りをやりこんでいるわけではなく、イトウ釣りのシーズンだから、ちょっと来てみた、といった人達なのではないでしょうか。
そういった人達なので、当然ポイントにも詳しくなく、日本で一番有名な場所くらいしか選択肢がないのでしょう。この川に来るしかないわけです。
こうして考えてみると、釣りの有名なポイントほど、ライトなタイプの釣り人、あまり上手でない釣り人が集まりやすいと言ってもよいのかもしれません。
ですから、普通では考えられないような行動をする釣り人がいる可能性も高くなるのではないでしょうか。
自分が釣っている場所に「トボンッ」とルアーを投げ込まれたり、ラインをクロスしてキャストされたりするようなことは、いくらでも起きる可能性があるでしょう。
もしこのようなことが起きても、決して怒ってはいけないと、私は思います。
釣り場は、私有地でない限り誰のものでもありませんし、釣りは、下手でも上手でも、誰にでもやる権利があるはずだからです。釣りが下手な人には、責任はないはずです。
強いて言うなら、魚がろくにいなくて、狭いポイントに釣り人が集中せざるを得ないような、この国の乏しい自然に原因があるわけで、そういった環境にしてしまった我々国民全員に責任があるのでしょう。
ですから、釣り場が混んでいたり、下手な人に邪魔されたりする原因は、自分にもあるということなのです。
混みあった有名ポイントでトラブルに見舞われながら釣りをするということは、自分達の罪深さを見つめ直す良い機会なのかもしれません。