釣りをしていると、たまに奇妙なことに出会うことがあります。
ある年、減水気味の湖を歩いていると、沈木に刺さっている泥まみれのミノープラグを発見しました。
湖がこういった状態の時には、このようにいくらでもルアーを拾うことができて、やりだしたら切りがないくらいなので、目についた物しか拾わないようにしているのですが、そのミノーは泥まみれなのに不思議と目立って見えました。
トレブルフックのポイントがいくつも刺さっていたのを木から引き抜いて、「物騒な針使ってるなー」と思いながら、ジャブジャブとその場でミノーを洗い、泥を落とすことにしました。
泥が少しとれていくらか綺麗になってくると、どこの何というルアーかハッキリ分かってきて、「買ったら1,600円だなー」なんて思っていると、いきなりびっくりなことを見つけ、ルアーを洗う手が止りました。
そのルアーには、油性マジックのようなもので、ハッキリと誰かの氏名が書いてあるのです。
有名な人のサインというわけでもないですし、 ハンドメイド物で作者の名前が入っているわけでもないですから、どうもルアーの持ち主の名前のようです。
これは、何とも気持ち悪いですね。
見知らぬ人の名前が書いてあるルアーなんて、なんだか使う気にはなれないではないですか。
どうせなら住所まで書いておいてくれれば、定形外郵便かなんかで送ってあげるんですが、ただ名前が書いてあったって、どこの誰だかさっぱり分からないので、どうしようもありません。
ただただ「私のものなんですけど」というような怨念が感じられて、気持ちの悪い呪いのルアーのようでもあります。
何にしても、そもそもが私が一番嫌いなタイプのルアーであるプラスティック製のプラグだったので使う気はなかったのですが、ちゃんとした有名ルアーなので捨てるのももったいないです。
溶剤の入ったもので擦れば、名前は消えるでしょうけど、それをやるのも何だか気持ち悪いです。
「この呪いのルアーをどうしたものか」と思いながら釣りをしていると、ちょっと離れた所にルアーを投げている釣り人を発見しました。
近くに接近してみると、まさにこの呪いのルアーのようなプラスティック製のミノーを投げているので、どうもこういったルアーが好きな人のようです。
「これはよいチャンスだ」と思い、私は通りがかりに「こんにちわー、これ拾ったんですけど要りますか?」と呪いのルアーを渡しました。
「いいんですか?ありがとうございます」と、その人が嬉しそうに返事したのを確認してから、「何か名前が書いてあって気持ち悪いんですけど…」と私は付け足しました。
その人は、「うわぁ、ホントだぁ」と戸惑っていましたが、私は「変ですよねー」なんて言いながらさっさと立ち去りました。
こうして、私はなんとか呪いのルアーを手離すことに成功したのですが、強引に掴まされたあの人は、あのルアーをどうしたのでしょうかね。
ちょっと無理矢理押し付け過ぎたでしょうか。
意外と細かいことを気にしない人で、あのルアーを使って爆釣していることを祈ります。