小屋の前で火を起こしたり、停まる準備をしていると、山の中から馬を引き連れたモンゴル人スタッフがやってきた。
馬にはいくらかの酒やキャンプ道具などが載せてあったが、ボートを回収して運ぶのが一番の役目らしかった。
焚き火の周りでくつろいでいると、ルームメイトが、「ここで必ず大きなのを釣るから、写真を撮ってほしい」と言ってくる。
どうもこの場所は、僕は見たことがないのだが、ディスカバリーチャンネルの番組に出てきた有名な場所らしく、その時のガイドは目の前に座っている人で、結構な有名人らしい。
だから、ここに来て釣りをすることは、かなり凄いことらしく、ハンサム君も興奮気味だ。
食べるためにレノックを釣ると言って、ハンサム君の父親が1投1匹のペースで何匹か手頃な魚を釣り、例によって写真を撮らされていると、ガイドが「タイメンが居るなぁ」と言った。
「釣りたいか?」
と聞かれたので、「もちろん」と答えると、「それで、どうしたい?」と聞いてきた。
どうしたいも何も、釣りをするしかないのだし、何を言ってるんだろうか?
と不思議な気持ちのまま、僕がルアーケースをバッグから取り出すと、彼は「グッド!!」と言って、満面の笑みを浮かべた。
そして、横ではハンサム君が、ここでは書けない釣り(お察しください)の準備をしている。
それを見て、「どうしたい?」というのは、釣り方の話だったのか!と、僕はようやく理解した。
ハンサム君と並んで、魚が居るという辺りを釣り始める。
ちょっとこれは勝ち目のない勝負だなぁ、と思っていると、ハンサム君の1投目で、仕掛けが流れなくなった。
「根掛かりしたかな」
と彼が言うと、「ちょっと見せてごらん」とガイドが、ロッドを取り上げた。
グイグイとしばらく煽っても外れないと思っていたら、「あれ!タイメンだわ!」とガイドが言って、ロッドをハンサム君に返した。
そこから急に魚が暴れだしたので、ハンサム君はじっくりとファイトする。
彼は先述のテレビ番組の真似をしたりと、余裕いっぱいで和やかな釣りだ。
上がってきたのは、110センチほどのタイメンだった。
それにしても、ガイドはサングラスも掛けていないし、掛けていたとしても水中に魚が見えるような深さでもないのに、どうしてタイメンが居ると分かるのだろうか。
ちょっとした水の流れの変化とかで、分かるのだろうか。
とにかく、滅多にやる気を出さないが、この人は驚異的な能力を持っているなと、改めて認識した。
このポイントには、まだまだ魚は居るようなので、今夜が山かもしれないなと、僕は思っていた。