「明日の朝は5時に釣りに行こう」
とルームメイトが言ったので、翌朝はその時間に起きてみたものの、ルームメイトはなかなか起きない。
隣の部屋のハンサム君達は、起きているようなので、もう部屋から出て、釣りの準備をした。
ダウンのシャツを着て、ニット帽を被って、ちょうどよいくらいの気温。
手がかじかむほどではないので、やはりこの時期にしては、気温が高すぎる気がしてならない。
キャンプの近場を攻めても何も反応がないので、良い時間帯のうちに良い場所をやってしまおうと、一人で不気味な雰囲気の早朝の森の中を突き進み、昨日発見した、良さげなポイントを次々に回ってみる。
これまた、驚くほど反応がなく、そうこうするうちにすっかり明るくなってきてしまった。
「こりゃ、今日はあとは夕方だけ釣りをすればいいや」
と部屋に戻ると、ルームメイトは居ない。
起きて釣りをしているのだろうか。
「どうせ釣れないんだ。さあ、もう寝よう」と、僕はウェーダーを脱ぎ、ベッドに潜り込んだ。
ここの布団は、薄いのにとても温かくて、一体どうなってるのだろうか、なんて考えながら、うとうとしていると、部屋のドアが開いた。
「寝てるのか?釣りに行くぞ!」
とルームメイトとハンサム君が立っている。
「ラフティングして、下流に行くんだ」
とハンサム君が説明してくれる。
どうやら、昨日「5時に出掛けるぞ」、と言っていたのは、このことだったらしい。それにしては、もう7時過ぎだぞ。
「昼間は暑いし釣れないし、おれはいいよー」
と言いかけたが、おばさんが起こされて作らされたであろうサンドイッチを、二人はいくつも抱えていたので、それを無駄にするのも悪い気がして、出掛けることにした。
脱いだばかりのウェーダーをまた履いて、ハンサム君の父親も加わって、ボートを川原まで運び、どんぶらこと旅に出る。
そんなに遠くに行くわけでもなく、2キロほど下流に上陸。
そこから、岩山を登ったり、地表がふかふかの苔に覆われた深い森をさ迷ったりしながら、釣り下っていく。
ハンサム君と父親は、やたらスニッカーズなどのお菓子をくれるので、目もすっかり覚めて、元気が湧いてくる。
小さい魚が、10~14センチのミノーに何度かヒットするのだが、ほとんどがバレてしまう。
ようやく一匹釣り上げると50センチ足らずで「1メートル足りないな」と言いたくなる、餌のような大きさのタイメン。
文字通り、大きな魚の餌になりかけたらしく、身体に傷がある。
この後も、ここら辺で釣った40センチくらいの魚には、襲われた痕があることが多かった。
それだけ、デカイ魚がわんさか居るのだろう。
バラシまくったとは言え、上流部よりも、明らかに魚の反応がある。水位も若干低くなってきた気もする。ちょっとは、調子が出てきたのかもしれない、とホッとしながら、汗だくになりながら、14時頃にキャンプ
に歩いて帰ってきた。
ボートは馬で回収してくれると言う。
昼寝をする前に、少し今日の反省。
今まで経験したことがないくらいの確率で、魚をバラしたので、原因を考えてみる。
バラシた時に、共通することは、同じフックを使っているということだった。
ヒラマサ針を使った、太軸のシングルフックである。
太軸だから刺さりにくいのか、安く大量に仕入れたものだから刺さりが悪いのか、どちらにしても、このフックにバラシの原因があるのではないか、と考えた。
眠りにつく前に、今日タイメンを釣ったミノーに付いていた、やや細軸のシングルフックに、いくつかのルアーのフックを交換した。
これでイケるはずだ。
部屋の中は、別の世界のように涼しいので、すぐに眠りについた。
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