よく釣り人に「何が釣れるんですか?」と聞く通行人や観光客がいる。
あれはできればやめた方が良い行為だ。
しかし、釣りをしない人には、それの何がいけないのか、なかなか分かってもらえないことかもしれない。
まず、「何が釣れますか?」と声をかけられたら、釣り人は心底困ることになる。
なぜなら、釣り人は「何も釣れていない」ことが、しょっちゅうあるかるからだ。
しょうがないので、「本当は~が釣れるはずなんだけれど、今日はまだ釣れてません」だとか、若干の言い訳を挟みつつ、恥ずかしく辛い説明をすることを強いられることになる。
これだけで、釣り人にとっては、かなりしんどいものだ。
愛想の良い釣り人なら、にこやかに笑いながら、丁寧に受け答えをすることなどもあるが、顔は笑っていても、心では泣いているのだ。
そもそも、釣れていない時点で、釣り人はかなり追い詰められた心理状況にあり、苛立っていたり、悲観的になっていたりする。
そんなところに、無邪気に厳しい質問をされたら、さらに追い詰められ、もう釣りは止めたくなってくるし、海に飛び込みたくなってしまってもおかしくない。
とにかく、少しでも思いやりの心を持つ人なら、「何が釣れるんですか?」といった類の質問は、もうしない方がよい。
ジロジロと見られるだけでも、「話しかけられたらどうしよう」と、釣り人はビビるので、遠目に見るか、さっと通り過ぎて、とにかくソッとしておくのがベストだ。
同じような理由で、釣り人同士でも、「釣れましたか?」と聞くのはやめた方が良いと思う。
もしも、運良く聞かれた人が釣れていれば、それはもうあれこれと、語りまくりたくてたまらないだろう。普段無口な人でも、この時だけは、酒にでも酔っぱらっているかのように饒舌になるものだ。
けれども、残年ながら、釣れていない確率の方が、圧倒的に高いのが現実だと思う。
「全然ダメだよ」と、元気を振り絞って笑顔で答えて、釣れていないという心の傷を、さらに広げることになる。
以前、私は、どうしても釣り人に「釣れたか」確認をしなければならない立場に置かれていたことがあり、本当にその一言をかけるのが心苦しかったものだ。
それなのにだ。
「釣れましたか?」と質問をする釣り人は、結構存在する。
自分がそう聞かれたら、どう感じるか、という想像力が欠如した人々なのだろうか。
他人も釣れていないのを確認して、安心したいのだろうか。
それとも、釣り場の状況などの情報を、仕入れようとしているのだろうか。
いずれにしても、こうした思いやりの心を持たない釣り人が後を絶たないので、私はいつも「全然ダメですよ~」っと精一杯の笑顔を浮かべて答えるばかりだ。
だから、自分以外には全く釣り人のいない、どこか遠くに行ってしまいたい。もうこの国では、釣りはしたくない。
そう願うことも少なくない。