先日、釣りや魚にあまり興味のない人から、「オショロコマってどんな魚?」と聞かれることがありました。
なんでも、朝の連続テレビ小説「なつぞら」の中で、会話に出てきたため、その人は気になっていたのだそうです。
誰でも産まれた時から、あらゆる魚の名前を知っているなんてことはないはずです。
図鑑で調べたり、魚屋や水族館で見たり、人から聞いたり、その人のようにテレビで名前を聞いたりして、その魚を知るという出会いの瞬間があるものでしょう。
私がオショロコマという魚と出会ったのは、ちょっと変わったことがきっかけでした。
ムツゴロウ王国。
自分が何歳の時だったかは記憶にないのですが、おそらく小学生の頃に、布団の中からビデオに録画されたテレビ番組を見ていました。
その頃は、風邪や病気で学校を休むとそうしているのがお決まりのパターンで、それに備えて母親が色々とテレビ番組を日頃から録画しておいてくれていたのです。
その日はたまたま、北海道にあるムツゴロウ王国の様子を伝える番組を見ていました。
私が子供の頃は、年に数回ムツゴロウ王国の番組が放送されていたものです。
特に畑正憲氏のファンだったわけでもありませんが、著作も読んだことがあったり、その暮らしぶりが楽しそうなので、その日も興味深く見ていました。
その番組中で、季節がいつだったかは覚えていないのですが、「年に一回、王国内を流れる川で釣りをして魚を食べる」というような行事の様子が放送されていました。
川というよりは、藪の中の水たまりというような小さな川に、国民達は突入していきます。
そして、そんな場所でちょちょっと釣りをすると、いくらでも魚が釣れてくるではありませんか。
その入れ食いになっている魚がオショロコマで、私はその時初めて存在を知りました。
当時の私の家の回りには、ろくに魚がいない環境だったので、「凄いな、王国は」とびっくりしたのを覚えています。
しかし、その頃の私は釣りをしたこともなければ興味もなく、「オショロコマというのは、ムツゴロウ王国にやたら沢山いる魚なんだ」と覚えた程度で、見てみたいとか釣りたいなどとは、特に思いもしませんでした。
時は流れて、いつの間にか私は釣りが著しく好きになり、オショロコマを釣る日もやってきました。
オレンジ色のお腹が水中で踊るのを見た瞬間、「あぁ、これがムツゴロウ王国で釣られていた魚か」と、急に子供時代の記憶をとり戻しました。
そして、簡単に何匹もオショロコマを釣るうちに、王国ではなぜ「一年に一度」釣りをしていたのかが、分かった気がしました。
この魚は、簡単に釣れてしまうし、移動範囲も狭そうな魚ですから、一年に何度も釣りをして食べてしまったら、小川からはあっという間に絶滅してしまうので、自分たちでルールを作って規制していたのでしょう。
ムツゴロウ王国ではこのようなルールがあったようですが、その外の北海道にはこのようなルールはありません。
昔から現在まで、ヤマメやオショロコマを根絶やしにしかねないくらい釣りまくる人々が、それなりに居るようです。
そういった人達の噂を聞いたり、妙に魚の少ない川を見つける度に、私は「みんなが、ムツゴロウ王国くらいの自制心を持っていればなぁ」と子供の頃見たテレビ番組を思い出しては、思ってしまいます。
まあ、人間は良い人ばかりではありませんから、期待するだけ無駄でしょうか。