開高健は著書の中で、『犯人と釣り人は、現場に戻ってくるという言葉が昔からある』というようなことを言っていた気がしますが、これは見事に釣り人の習性を言い当てた言葉だと思います。
釣れても釣れなくても、釣り人はポイントに戻ってくる。
私は警察でも犯罪者でもないので、犯人のことはよく分かりませんが、釣り人がポイントに戻ってくる気持ちはよく分かります。
まず、釣り人は、一度でも良い思いをした場所には、また次の年の同じ時期などに、どうしても行きたくなるものでしょう。
前年の釣果の再現や、それ以上のものが望める可能性が高いからです。
そんなことを考えて繰り返しているうちに、毎年同じ時期にその釣り場に通うのが、すっかり習慣になってしまうものです。
それから、魚が釣れなくても、同じ場所に繰り返し通うことになることも、よくあります。
大きな魚をバラしたとか、信じられないような大きさの魚の姿を見たとか、他の人が釣っているの見たとか、どうしても諦められない執着心のようなものが生まれた場合には、何度でも何年でも釣り人は同じ場所に通うことになるものです。
実際に、自分の釣りを振り返ってみても、「この時期はあそこだ」というような、毎年恒例の年間スケジュールみたいなものが出来上りつつあり、なかなか新しい釣りに手を出さなくなってきています。
それから、釣り場に行ってみても、「あの人は、去年も一昨年も居た気が」と思うような釣り人を沢山見かけます。
釣り人の皆さんが、良い思いをしたから通っているのか、諦められないから通っているのかは分かりませんが、どちらにしても、その場所はその釣り人にとって良い場所であることには違いないでしょう。
夢や希望を感じていなければ、釣れたにしてもまだ釣れていないにしても、同じ場所に何年も通うわけはないからです。
ですから、ある年から急に姿を見かけなくなった釣り人が居たとしたら、夢を叶えたのか、諦めたのか、ここには夢はないと見切ったのか、病気にでもなったのかの、何れかなのではないでしょうか。
そんなことを考えながら、遠くの釣り人を眺めて、毎年同じ場所で釣りをするのも、なかなか面白いものです。
まあ、私は釣り人とは基本的に一切関わりたくないので、他人に積極的に話しかけたりはしませんから、いつも想像しているだけで永遠に答えは出ないものなのですが。