釣りにゃんだろう

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それ、もっと早く聞こうよ事件。 ~Bridge over Troubled Water~

目の前に広がるのは、モンゴルとロシアの国境を流れる川。
グリーンに透き通った水が結構な水勢でゴーゴーと流れ、日本で言えば本流といった雰囲気だ。

今から、この川を歩いて対岸へ渡るのだと、我々数人のグループを引率してくれている釣りガイドが言う。

確かに、この川の中では、浅くなっていそうな場所ではある。けれども、日頃は膝より深く川に浸かるくらいでも、嫌がっているくらいの僕には、「いけるのか?」と疑いたくなるレベルである。

しかし、まあ、ここで足手まといになるわけにもいかない。周りの人と同じように、僕もウェーダーのベルトをきつく締めたりして、川を渡る準備をした。

一人のメンバーが、僕が肩からカメラを掛けたままだったのを見て、「大丈夫なのか?」と心配してきたので、「問題ない。多少の水はOKだ」と僕は自信たっぷりに答えた。
そのカメラは、防水ではなくて防滴のものだったけれど、今まで雨でも雪でも全く問題はなく、丈夫なものだと自信を深めていたから。

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さて、ついに一列になり川を渡り出す。
とにかく離されないように付いていく。

 

やはり、水の勢いはかなりのもので、足が浮きそうになる。
深さも思った以上にありそうだぞ。
先頭の人は、すでに胸まで水に浸かっている。
僕以外のメンバーは、みんなヨーロッパの屈強な男達だ。全員身長が軽く180センチ以上ある。

 

ちょっと待てよ
僕の身長は、170センチあるかないかだ。
180センチ以上の人が、胸まで浸かっていたら、僕はどうなるんだ。

そう考え始めたころには、もう両足が付かなくなるくらいの強い流れを受け、時折身体が浮くような感覚に襲われていた。

 

でも、ここまで来たんだ、付いていくしかない。
意を決して、歩みを進めるが、水の深さも勢いも増すばかり。
もう、かなり下流側に斜行しながらしか進めない。
そうこうするうちに、身体は完全に浮き、流され始めた。

「これは逝ったな。バイカル湖まで流さて、人生も終わりだな」
と思った瞬間、ガイドとメンバーが両脇から抱えてくれて、再び歩くことができるようになった。

結局、かなりウェーダーの中に水が入ってしまったが、生きて対岸に辿り着くことができた。
ここが、三途の川になりかけたが、紙一重で回避できた。

「お手数かけて、すまなかったね。助かったよ」
と、僕はおわびとお礼をメンバーに言った。

ふいに、ガイドが、先頭を歩いていた人に「体重何キロだ?」と聞いた。

「110何キロかだ」
彼は答えた。

「君は何キロだ?」
ガイドが僕にも聞いた。

「57キロだ」

それを聞いた瞬間、ガイドは「ピューー」と言って、川に流されるジェスチャーをしながら笑った。
他のメンバーも「そりゃ無理だぜ」といった感じで、 爆笑している。

「それ、もっと早く聞こうよ」
僕もそう日本語で言いながら大笑いした。

僕は、釣りをしていて、こういった軽く命に関わるハプニングが起こるのが、とても嬉しいし楽しい。
たとえ死ぬことがあっても、好きなことをしていて死ぬのだから、これほど幸せなことは、なかなかないだろう。
少なくとも、夢も希望も興奮もなく、コンクリートに囲まれた街で、ガンなんかに蝕まれて、ジワジワと最期を迎えるより、比べものにならないくらい幸せだろう。

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結局、次の日からは、安全性が考慮されて、その場所は、タイヤの大きなトラックのような車の荷台に乗って渡るようになった。

ところで、僕が肩からかけていたカメラは、見事に壊れていた。防滴を過信し過ぎていたのだ。
ウェーダーから水を抜き、そのカメラの様子を確認している僅かの間には、そのすぐ横で、さっき川から僕を救ってくれたメンバーが、1メートルジャストのタイメンを釣っていた。
人助けして善行をすると、すぐに応えてくれるのが、モンゴルの川の神様のようである。

 

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