釣りにゃんだろう

猫のように気まぐれに 独断と偏見に満ちた釣り情報をお届け

ひなびた温泉街の釣り風景。

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その港には、釣り禁止の看板の前で、堂々とサビキ釣りをしているオヤジがいた。
どこに住んで居ても、どこを旅して居ても、やはり釣り人と釣果は気になるので、しばらく足を止めて観察する。
裾の破けた紺色の長ズボンを引きずりながら、オヤジは熱心に誘いをかけていたけれど、魚は一匹も釣れていない。
その褒められたものではない行いと、釣果が比例していることに安心して、僕は港を後にした。

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港から駅へと続くうねうねと曲がる坂道の途中に、真新しいセブンイレブンがあった。
毎日、午後4時半。
40歳過ぎの「お姉さん」は、そこで煙草を二箱買い、店の前の赤い塗装が剥げ落ち、潮風で腐食の進んだベンチに背中を丸めて座り、一本吸ってから出勤する。

僕はその隣に少し距離を置いて座って、100円のアイスコーヒーを飲みながら、もう一回り大きいサイズにするべきだったと後悔しながらカップを見つめた。
お姉さんは、何かを後悔するほど自分の人生に興味がないと言う。

「素晴らしい」
瞬間的に僕の口から素直に出たのは、そんな感想だった。

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それにしても、くすんだ空の色の汚いところ。
空の色が汚いと、海の色も汚くなる。

お姉さんは、その汚れた水平線を眺めながらタバコを一本吸い終えると、ため息混じりに立ち上がった。
それから、路地の奥の方へと出勤していった。
夕方の生温い海風に吹かれて。

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この町では夜になると、男も女も、お金で心の隙間を埋めようと努力する。
けれども、誰もこのご時世じゃ大金なんて持っていやしないから、町はひたすら寂れ続け、惨めさだけが蓄積されていく。

 

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