釣りにゃんだろう

猫のように気まぐれに 独断と偏見に満ちた釣り情報をお届け

welcome to the hell.

白タクのような青年に、お礼を言う間もなく、空港で待ち構えていたお姉さんに連れられて、今朝ウランバートルに到着した釣り軍団に合流させられた。

空港の片隅には、大小様々なロッドケースが積み重なっていて、周囲には主にヨーロッパからの長旅でお疲れ気味のお仲間が、座ったり寝転んだりしている。
全員で15人ほどいるが、各地のキャンプ地に散るので、このうち数人が、これから長い間一緒に暮らす友人達ということになる。

 

f:id:nyandaro:20180712085128j:plain

空港には、他にもロッドケースを抱えた軍団が居て、これは違う会社により集められた人々で、主に北米からやってきた人々らしかった。
この人々も、同じ国内線の飛行機に乗るので、その便の乗客の半分は釣り人ということになる。それだけの各国からの人々が、魚を釣るためだけに来ているという狂乱状態は、もう隣の国で行われている、ワールドカップのような熱気に満ちている。

さて、ベンチに座っていると、スロバキアから父親とやって来たという、ハンサムな若者が現れて、握手を求めてきた。
どうやら英語がそれなりに話せるのは、今回の仲間の中で彼だけらしく、僕と「仲良くしてやってくれ」と事前に会社の方から頼まれていたようで、少し改まった感じで緊張気味に話しかけてきた。

お互いに片言の英語なので、上手い具合に話が弾み、すぐに仲良くなれた。
彼は、僕よりも一回り以上若いようだったが、僕はどこに行っても10歳以上若く見られるので、グループの中では若手メンバーという同じ仲間に分類されることになった。

釣りの話や東京のナイトライフの話をしているうちに、チェックインの時間になり、荷物の15キロ以上の超過分に、1キロあたり200円ほどのお金を払う。
これは、小さな飛行機だからか、持ち込み荷物も重さに含むという徹底ぶりで、どっしり釣り具を持ち込む人などは、かなりの金額を払っていた。

 

 

f:id:nyandaro:20180712085217j:plain

そのままの流れで、搭乗口へ。
「あなたもキスをしなさい」
とお姉さんに西洋風の挨拶を強制されて別れ、プロペラの付いた小さな飛行機に、大量の釣り物資と釣り人と共に、詰め込まれることとなった。

ガンガン揺れる機内では、飲み物とお菓子が、綺麗なCAさんから配られる。国内線のCAさんは、だいたいパッチリした目で、ハッキリした顔の人が多いので、日本人の感覚からしても、綺麗で可愛く見える。

座席のテーブルを拡げると、ひどく傾いてガタガタとしていて、壊れる寸前だ。
飲み物を置いておくには、全く適していないので、結局ささっとコーラを飲み干して、窓の外を眺める。

なんだか、茶色いのだ。
眼下には、砂漠のような色の大地が広がっている。
いつもは、もう少し緑色だった気がするのだけれど、暑さで草が枯れてしまったのだろうか。
それとも自分の記憶が間違っているのだろうか。

 

 

f:id:nyandaro:20180712085256j:plain

そんなことを考えているうちに、眼下にいくらか緑の大地と山が現れて、モンゴルのムルンという地方都市に到着した。

飛行機を降りると、歩いて空港の建物に向かう。
小さな小さな古い空港で、味があって旅情に溢れていて、僕は気に入っている。

たちまち空港の中は、釣り人ですし詰め状態になり、ロッドケースの無事を祈りながら、荷物を待つことになる。

 

 

f:id:nyandaro:20180712085345j:plain

しかし、そんな神経質にロッドケースを心配しているのは、僕だけだったようで、全部の荷物が持ち去られると、ポツンとフライロッドのケースが一つ残されていた。
「うちらのじゃないよね」
と、みんなで顔を見合わせてから、メンバーの一人が、すでに空港から出た、他の会社の団体に渡しにいった。
自分のロッドを忘れるとは、なかなかのどじっ子もいるもんだ。

 

f:id:nyandaro:20180712085430j:plain

さて、ここでまず半分ほどのお仲間とは、違うキャンプ地に行くのでお別れだ。

僕は、そこに以前行ったことがあり、「とてもよく釣れたよ」と教えてあげたら、一人のフライフィッシャーは、安堵と希望の混じった表情を浮かべて、嬉しそうだった。
幸運を祈り合い、待機していたランドクルーザー数台で、彼らは旅立っていった。

それから、途中までは同じ行程の3人も、ランドクルーザー1台で出発した。

もうすっかり誰も居なくなった空港の前に取り残されたのは、同じ最奥地のキャンプに向かう、6人の仲間だけだった。

6人いるのに、車は一台しかなく、どうやら、もう1台が遅れているらしかった。

40分ほど待つと、レクサスバージョンのランドクルーザーのようなものが現れて、ようやく出発となった。
時刻は午後1時を過ぎている。

道は長いのだから、さあガンガン行こう!
というわけにもいかず、それから町のスーパーに向かい、お酒などの買い物を少々。
スーパーの隣には、巨大なテントを張り、中で大音量で音楽を長し、酒を売っている、クラブのようなものがあった。
平日の真っ昼間だが、まったりと数人の若者がたむろっている。
流れているのは、誰が歌っているか分からない、ボブ・ディランの曲だった。

 

 

f:id:nyandaro:20180712085609j:plain

長い買い物タイムが終わり、今度こそ本当に出発。
さっそく車内ではビールで乾杯をする。

1時間ほど、モンゴルでは珍しい舗装された道路を走ると、そこから外れて標準的な道路へ入っていく。
標準的な道路というのは、荒れ地に車の轍が残っているだけのものだ。

その瞬間、隣に座っていたメンバーが、「welcome the hell !」と言った。
長く厳しい、お尻をボコボコと打ち付けられる、激しい車の揺れとの戦いの時間の始りだ。
各々、掴まったり、寄りかかったりして、少しでも楽な体勢を模索する。

絶えずガタガタとなる車の中で、軽く酔いながら、景色を眺めたり、うとうととしていると、「帰ってきたんだなぁ」と嬉しさと釣りへの希望が湧いてくる。

その希望は、この道のりが長く厳しいほど、大きく膨らんでくる。
それだけ、人がなかなか立ち入らない、釣り人のプレッシャーがかかっていない場所に向かっているのだから。